OLYMPUSがカメラ事業をファンドに売却したり、M43規格を主導しているはずのパナソニックがフルサイズ機のDC-S5を発表したり、GH6の噂をあまり聞かないなど、M43界隈の未来が心配になりつつある今日この頃。
財力があればスチルもムービーもフルサイズに移行したい所ではありますけども、ボディもレンズも大型化するし、熱問題との戦いで外部収録しようとし始めたら装備そのものがゴッツくなるし?と、センサーが小さいM43のアドバンテージって大きいよね、となってくる。スチルはフルサイズへの移行を検討したとしても、ムービーは当面M43を継続しようと思う、レンズ資産も揃ってきたし。
今回は、手元に何台かあるM43ボディの中の一つ、Blackmagic Design Pocket Cinema Camera 4K と、収録に使用しているSSD選びの長い旅について。
どうにも安定しない外部SSD収録
Blackmagic Design Pocket Cinema Camera 4K (以下、BMPCC4K)の魅力は何と言ってもUSB-Cポートに接続したSSDストレージへ直接収録ができる事だと思う。SDカードやCFastスロットも備えているけれど、コスパを考えると圧倒的にSSDが良い。
最近は編集環境をFinal Cut Pro XからBlackmagic Design謹製のDavinci Resolveへ移行している最中、ファイルサイズが小さくて済む「BlackMagic RAW」(以下、BRAW)の収録で十分なんじゃないかと思い始めているものの、互換性の観点からProResも捨てがたい。と、自分自身の中での標準の収録形式を何にすべきかひよっていて、BRAWだったらほぼ何の問題も無いのだけど、ProResで収録した場合にどうにもこうにも収録が安定しないという問題に長いこと苦労したので、ここらで頭の整理も兼ねてアウトプットしておきたい。
ProRes 4:2:2 UHD 29.97fps の長回しに耐えられるストレージ探し
これがいざやってみると結構壮大なテーマ。BRAWの固定ビットレートや、ProRes Proxyなら何の問題もない。あくまでProRes 4:2:2以上、29.97fps、UHDで安定した長回しがしたいという主旨。
また、ここでの「安定しない」とは、1時間以上の連続収録が出来ず、録画が停止してしまうことを指す。BMPCC側には「コマ落ち発生時に収録を停止」オプションがあるものの、これをオフにして収録を続けて生成されたデータに価値はないので、あくまでオンでの運用が前提。
尚、複数台同時に収録することもあり、BMPCCの他には、
- Panasonic LUMIX DMC-G8
- Panasonic LUMIX DMC-G7
- GoPro HERO5 / 7
- DJI OSMO Action
- ZOOM Q4n-4K
- Apple iPhone XS / SE
GoPro HERO以降はサブカメラ。BMPCCやLUMIX(そのリグ)にシュー付けが基本。最近のスマホはスゴいっすね、ボケや解像感はさておき、本体が熱を持ちながらも意外に安定した長回しも出来てしまう。
いずれもビットレートはBMPCCで桁違いに低く、UHS-1 U3のSDカードなら4Kでも120GBで2時間強撮れてしまう。何が言いたいかというと、「60fpsでの収録は(今のところ)望んでいない」ということ。YouTube界隈では4Kや60fpsでの配信を積極的に行う向きがあるものの、そもそも編集、再生環境がまだまだ限られているし、編集時の柔軟性を確保するために4Kは必要でも、60fpsでの収録には、設備面でもまだ積極的になれない。案外アクションカムは早い段階から60fpsに対応しているけれど、心配になるくらいの発熱がある。
SATA規格の方が安定している!?
半分正解。
試行錯誤の過程で入手したSSDがこちら。
- Micron 1100 MTFDDAK2T0TBN-1AR1ZABYY (2.5インチ SATA)
- intel 660p SSDPEKNW010T8X1 1TB(M.2 NVMe)
- ADATA SU630 ASU650SS-960GQ 960GB(2.5インチ SATA)
- Western Digital WD Blue WDS500G2B0B 500GB(M.2 SATA)
- BIOSTAR M700-512GB(M.2 NVMe)
- Crucial P1 CT1000P1SSD8JP 1TB(M.2 NVMe)
SU630はNINJA Vで使用するために調達したもの。試験的にBMPCCへ接続してみるも安定収録の選択肢にはならなかった。
MTFDDAK2T0TBNは外出先でのAvid ProToolsによるレコーディングと、主に自宅での動画編集用途に導入したMacBook Air 2018に接続しているeGPU BOX「Mantiz Venus MZ-02」に内蔵、編集中プロジェクトの保存用として運用。
先に結論を書いてしまうと、この中で最も安定しているのは WD Blue WDS500G2B0B。
そもそもNVMeであろうと、別途用意するケースがThunderbolt 3対応であったとしても(実際に用意していたのはUSB3.1 Gen1規格のもの)、BMPCCのUSB-CポートはUSB3.1 (恐らくGen1)なので、SSDそのものが規格的に高速であったところであまり意味はないはず。それにしてもなぜ軒並みNVMe規格のSSDは不安定なのか、暫く意味が分からなかった。
発熱が関係?ケース選びに奔走
特にNVMe規格のSSD、PCに内蔵させる場合はPCIe x4の信号線に接続されるはずなので、速度はSATA比で当然高速ながら、その発熱がしばしば問題になる。マザーボードにはヒートシンクが付属しているものもあるし、単体でも入手可能。BMPCCでのProRes収録時もケースが尋常じゃない熱さに達して触れない位になるので、もしかしてサーマルスロットリングによって極端に書き込み速度が落ちているのでは、という仮説が。
用意したSSDの中でSATA規格の3種は、M.2比で発熱はだいぶ大人しめ。サーモグラフィーを持っていないのでざっくりだけど、収録中でも「普通に触れる」程度。
サーマルスリットリングが原因だとしたら冷やせばいいんじゃね?という事で、いずれもAliExpressから調達。
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ROCKTEKというブランドのファン付きエンクロージャ。発注から約2週間して到着。SSDを取っ替え引っ替えして検証する身としては、ドライバレス構造は大変便利。
PCIe NVMeをUSB-Cへ変換するチップ違いでもパフォーマンスが変わるかも?と考え、他にもJEYI、ORICOブランドのものも複数購入してみるも、どうやらいずれも同じチップ「JMS583」を使用している模様。
ファン付きなROCKTEK製エンクロージャと660p、P1、M700と取っ替え引っ替え試してみたものの、どの組み合わせも安定性は似たようなものだった。残念。
あの Samsung T5 の中身
Blackmagic Designが公式に推奨SSDとして掲げており、Smallrig社がこれをリグに固定するためのオプション品としてマウンタを販売しているくらい、「BMPCC4K/6K使うなら買っとけ」と言われるSamsung T5。試行錯誤の末買い集めたSSDやそのケースの費用を考えれば、極論このT5を買っておけば間違いなかったし、推奨に恥じないド安定なのだとしたらその理由が知りたくなった、中身は何なの?と。
「samsung t5 teardown」のキーワードでヒットするWebサイトの一つ、
中身は同社の840 EVO mSATA版、MLC NANDだそう。辻褄が合う。
ここは素直にT5を買う!とはならず、予算の関係で(既に幾つもSSDやらエンクロージャに散財しているのに)同じ推奨リスト入りしているSanDisk Portable SSD 1TBを候補に。
当記事の執筆現在、「最大転送5500MB/s」を謳う「Extreme Portable SSD」と、「最大1050MB/s」を謳い、後発である「Extreme Pro Portable SSD」の2種類が併売されている。後者はその数値から恐らく中身がNVMeベース、仮設通りならSATAベースと思われる前者を選択するところ。残念ながら両者とも中身のNANDタイプ公開されておらず、Blackmagic社公式の推奨リストには「Extreme Portable SSD」が推奨として記載されており、後発の「Extreme Pro Portable SSD」は含まれていない。そしてあくまでも掲載されているのは1TBで、2TBの表記は無い。ちょっと謎。それでもWise、LaCie、Angenbirdなど他の推奨品と比べれば半値以下、ありがたいけど少し不安なくらい。
BMPCC本体の設定見直し
BMPCCは良くも悪くもファームウェアのアップデート毎にそれまでの設定が初期化される。WD Blue以外で収録が安定しない原因を設定面で補えないものかを確認すると、「オフスピードフレームレート」が有効かつ「60fps」に設定されていることもしばしばあった。
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先述の通り、標準のフレームレートは29.97fpsと決めており、スローモーションは撮らない。実質「オフスピードフレームレート」は不要なので、これをオフにする事は忘れずに実行。逆にこれが有効な状態でも安定していたWD Blue恐るべしとも言える。
また、同じ設定画面内にある「コマ落ち発生時に収録を停止」はオフ。本番中はオンで収録することも検討したいが、あくまでそれはコンスタン等に安定する本命SSDを入手出来てからであって、SSD選びに起因する収録の不安定さを補うものとして使ったりはしない。
ベンチマーク!
様々なレビュー記事を読まれたことがあれば、複数のベンチマークソフトを駆使してその結果を並べているサイトは多数ありますが、あくまで長時間の安定性を見極めることを目的に1種類だけ。
- AMD Ryzen 3 3200G
- MSI B450 Gaming Plus MAX
- DREVO X1 120GB
- HD Tuneの「File Benchmark」
- テストデータは100GB
- ファイルシステムはexFAT
ADATA SU630 1TB (2.5インチSATA / 3D QLC NAND)
B450 Gaming Plus MAXのSATAポートへ直接接続。
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20GBを超えた辺りで失速。途中でベンチ実行直後の速度まで戻ろうとするも、恐らく「キャッシュ切れ」を起こしてからは元の速度まで戻ることはなかった。
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ベンチ中に温度上昇を示す通知が。
Intel 660p 1TB (NVMe M.2 / 3D TLC NAND)
B450 Gaming Plus MAXのNVMe M.2スロットに取り付け。ヒートシンクとSSD本体でサーマルパッドをサンドウィッチ。
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1回目。何故か終始安定して100GBを完走。
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時間を置かずに2回目。30GB以降から急激に失速。SU630と同様にキャッシュ切れ後はハードディスク並のライトスピードに。マグレで安定は困る。
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なお、Intel謹製の「Solid-State Drive Toolbox」には、キャッシュクリア機能がある。某レビュー記事によれば、後発の760pでは出てこないとか。
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このキャッシュクリアを実行してから再び2周実行したところ、1周目は安定して完走、2周目は30GBから急降下という挙動がほぼ同じように再現した。どんなタイミングでキャッシュがクリアされるのか分からないし、このToolboxを使えるのはNVMe M.2ポートへ装着した場合に限られており、USB-Cエンクロージャに収容し多状態では使えない。よって仕込みとして都度何らかのマザーボードのM.2ポートに取り付けてキャッシュクリアする、という運用は現実的ではないので、BMPCC用にはなり得ないと結論づけた。
なお、ベンチマークの前にToolboxで健康状態を確認しており、その際ファームウェアを実行済み。各社何らかのユーティリティを要していることが多いので、健康状態のチェックやファームウェアのアップデートは行ってみるとまた結果が異なるかも!?
もうひとつ検証。失速がサーマルスロットリングによるものだとしたら、SSDを冷やすことで改善するのでは?という仮説。冷却ファン付きのケースに収納してUSB 3.1 Gen1接続に。当然スピードはUSBがボトルネックになるが、キャッシュ切れ後はSATA以下の速度に落ちてしまう上に、冷却が追いつかないのか40GBすぎから綺麗に減速。冷やし切れていないということではなく、キャッシュ切れによる失速が深刻。
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Crucial P1 1TB (NVMe M.2 / 3D QLC NAND)
660pと同じくサーマルパッド+ヒートシンク。
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660pよりは粘るも、50GBを超えた辺りから失速。
BIOSTAR M700 500GB (NVMe M.2 / 3D QLC NAND)
660p、P1と同じくサーマルパッド+ヒートシンク
![](https://studioplugins.blue/wp-content/uploads/2020/09/image-9.png)
65GBを超えた辺りから失速。それでも減速後にベンチ実行直後の速度まで戻ろうとするのはSU630にも見られた傾向。BIOSTARというブランドからはSSDを想起しにくいが、他比べても割安なのでもっと評価されていいと感じた。
Micron 1100 MTFDDAK2T0TBN-1AR1ZABYY (2.5インチ SATA / 3D TLC NAND ?)
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一時ツクモ界隈で安売りされていたSSD。30GB過ぎからキャッシュ切れと思われる失速はあるものの、緩やか。他のNVMeベースのSSDと同様の失速具合だったら編集中のプロジェクト保存用としては見直しを余儀なくされると思いきや一安心。2TBと今回取り上げる中では最も大容量なことも影響したのかは不明。
Western Digital WD Blue WDS500G2B0B (M.2 SATA / 3D TLC NAND ?)
SABRNET EC-M2CU で2.5インチ化し、B450 Gaming Plus MAX のSATAポートへ接続。
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このEC-M2CU、Micro USB 3.0ポートをSATAポートの隣に持ち、外付けのUSBストレージとしても使用可能。Type-Cバージョンの登場に期待。
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![](https://studioplugins.blue/wp-content/uploads/2020/09/image-13.png)
![](https://studioplugins.blue/wp-content/uploads/2020/09/image-14.png)
660pのことがあった(2周目で急減速)ので念のため2周続けて実行しても、急激な失速なく2回とも完走。素晴らしい。
同じM.2 SATAでは、Crusial MX500シリーズ、Samsung 860 EVOも評価が高いらしいけれど、それらよりもダントツに安価でこの性能。優勝。
推奨品を購入、と思いきや...
ド定番な Samsung T5 か、推奨リスト入りしている中では圧倒的に安価な SanDisk Extreme Portable か、両者で悩んだ結果調達したのがこちら。
SamsungやCrucialも捨てがたいがまたの機会に。
Western Digital、Sandisk、G-Technologyは今や同じ資本。既にWD Blue 500GBでの安定動作を確認しているので、ここはブランドを変えてみないと面白みがないと思いつつ、既に散財してしまっているいので安価な選択肢を。
SamsungはT5にしても860 EVOにしても、割高感否めない。
推奨にはリストアップされていないものの、同じ資本のWDブランドでSanDisk Extream Portableとほぼ同じ価格でこんなのも。
保証期間から何から一致。きっと中身同じでは?
さて、ベンチマーク
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一応2周目
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はい、優勝。
先に安定動作を確認していた500GBと同様、コンスタントに300Mbps後半をたたき出している。
肝心のBMPCCの収録ではどうか。
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![](https://studioplugins.blue/wp-content/uploads/2020/09/img_8903-1024x768.jpg)
時間の関係で3時間強の所で止めてしまったが、めでたく残り約23分のところで、目指していた3時間の連続収録を完走。2時間に差し掛かった辺りで1本目のNP-F970バッテリが尽きて交換。
バッテリ交換はノイズの元になるので、2本を炊いた交換出来る様にすべきかはまた別の課題に。
無茶してみる
目標にしていたProRes 4:2:2 29.97fpsの長回しに耐えられるSSDが見つかったところで、もっと高負荷な収録をしてみたらどうなのか、試してみることに。
ProRes HQ UHD 60fps、オフスピードフレームレート 60fps
フォーマット直後。残75分と表示。
何事も無く連続収録出来てしまう。
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鉄板のSansungか、SanDiskか
WD Blue M.2-2280 SATA WDS100T2B0B にWD Blue 1TBを組み合わせた費用と、推奨リストにあるSandisk Extream Portableが大体同じくらいになる(笑)T5はコスパが悪いとか、周りと同じが嫌だわ、みたいな天邪鬼さんでもない限り、Sandisk Extream Portableか最良かも知れない。
推奨リストには無いが、同じ資本の会社が作る、もしかして中身が同じかも知れないWD My Passport SSD (WDBKVX0010PSL) も良さそう。
遠回りした割には、コスパ考えると結局推奨品がお勧めかい!という内容だけど、安定収録の根拠が分かって良い勉強になった。
入手してきた3D QLC NANDは少しずつ売却する事に。動画以外の用途向けだと1TBは確実に持て余してしまうからね。